はじめに
「新傾向問題とはどのようなものを指すのか」については、さまざまな意見・考え方があると思います。そこで、ここで取り扱おうと考えている新傾向問題について、はじめに整理しておきます。
① 読解力を新しい切り口で問おうとしているもの。また、読解したことをどのように表現するかについて工夫しているもの
これまでも読解力を問う問題は数多く出題されてきました。要約問題、下線部について説明を求めるもの(国語の試験のように)、図・表・グラフの読み取り等、これらはすべて読解力を試す問題です。最近は、複数の情報を読みとって、統合しながら考えるという問題も増えています。さらには、読解力を新しい切り口で試そうとする傾向が見られ、読解したものをどのように表現するかについても工夫が見られます。
② 「思考力、判断力、表現力」を問おうとしているもの
新学習指導要領の「総合的な探究の時間」の目標に、「実社会や実生活と自己との関わりから問いを見いだし、自分で課題を立て、情報を集め、整理・分析して、まとめ・表現することができるようにする」とあるように、「読解(情報の整理)→思考・判断→表現」という流れが重視されていることがわかります。これは小論文を書く手順と全く同じです。このような問いはこれまでも出題されてきたものですが、これからは表現された結果それ自体も重要ですが、思考のプロセスがより一層重要視されていきます。例えば、複数の情報を編集するなどして、自らの意見を立て、その根拠を論じ、それを表現するプロセスを評価するような問いが出題されていきます。
③ 学ぶ意欲を見ようとするもの
「主体性を持って多様な人々と共同して学ぶ態度」をより評価するため、志望理由書や活動報告書が積極的に活用されるようになります。小論文においても、これまでも志望理由を問う問題は数多く出題されてきましたが、将来のビジョンと関わらせながら、大学で、何をどのように学ぶかを問う問いが増えていくと思われます。
④ 課題の内容が新しい社会に対応しているもの
手始めに、何回かにわたって、「読解力」に工夫の見られる出題を見ていこうと思います。
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問題の概要
この文章は、齋藤孝氏の「知識と言葉のマトリックス」について説明された文章です。会話やコミュニケーションにおいて、言葉にできることの重要性を述べた文章です。本来、マトリックスを使って「知識と言葉」について説明した文章ですが、読み取った内容をマトリックスに当てはめていくという問題になっています。さらに、マトリックスの左下(一番よくない状態)から、一足飛びに右上(理想的な状態)に持っていくのではなく、段階を踏んで状況を上げていくための2つのルートについて考えさせたうえで、筆者の「知識と言葉」の関係についての考えに、意見を述べる問題です。
問題の考え方
問1 マトリックスの縦軸・横軸が何を意味しているか、また、4つに分けられたブロックはどのような意味を持っているかについて、文章を読み取って答える問題です。文章を丁寧に読めば、さほど難しい問題ではないと思われます。縦軸が知識量で、上に行けば行くほど知識量が多いとあるので、下に行けば行くほど知識量が少ないことがわかります。また、横軸が言葉力で、右に行けば行くほど言葉にできるとあるので、左に行けば行くほど言葉にできないとわかります。次に、4つのブロックについてですが、本文中にそれぞれの説明がありますので、丁寧に文章を読み取り、記号に当てはめていきましょう。Cが理想的な位置とあるので、「最強ゾーン」だとわかりますし、その対極にあるBが「要努力ゾーン」ということになります。
問2 Bタイプの人がAタイプになるということ、また、Bタイプの人がDタイプになるということがどういうことを意味しているかをまず考える必要があります。前者は、要努力の人が多くの知識を獲得すること、後者は、要努力の人が言葉力を磨いていくということを指しています。そのうえで、それぞれの場合、具体的にどのように行動したらいいのかを考えましょう。具体的にとあるので、どのような視点で知識を獲得したらよいのか、言葉力を磨くとはどういうことかをまとめるとよいでしょう。
問3 今、コミュニケーション能力が重要視され、きちんとした会話ができるかどうかが人を判断する重要なポイントの一つとなっています。会話のテーマは無限にあり、どのようなことが会話のテーマになるかはわかりません。しかし、すべての物事について知識のある人はいないと言っても過言ではありません。そうした中で、テーマとなることにあまり知識がなくても、場の雰囲気を壊さず、会話について行くことができることが大事だと筆者は述べています。このことについて、「賛成・反対・どちらでもない」という自分の立場を明らかにして、具体例を示しながら、その根拠を述べることが求められています。確かに、マトリックスの4つのブロックの中で理想なのは「知っていて言葉にできる」というCです。しかし、すべての物事に知識があるのではない以上、少ない知識でも会話力・言葉力を磨いていくことが重要なのか、それとも、会話力・言葉力の前提には多くの知識が必要だと考えるかという、自分の立場を明らかにしましょう。
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