栄北高校は、埼玉県北足立郡にある私立高校です。全日制の男女共学で、「アクティブ・ラーニング」「キャリア教育」「基礎学力の向上」を進路指導の3つの柱とし、基礎学力の上に思考力・判断力・表現力を養う教育改革に取り組んでいる学校です。
2016年からは、文部科学省「実社会との接点を重視した課題解決型学習プログラムに関わる実践研究」指定校となり、自治体と連携したビジネスプランを考える取り組みを行っています。
今回は、私立高校での教員横断型の小論文指導について、お話を伺いました。
【お話をうかがった先生】
岩村 和夫 先生
●系列の埼玉栄高校で24年勤務。本校赴任12年。
●学習指導部を統括。進路指導部と連携して、生徒の学力向上に努める。
1.年間指導計画
――本日はよろしくお願いいたします。さっそくですが、まずは貴校の年間指導計画を教えていただけますか。
岩村先生:よろしくお願いします。本校では、3年間で次のような教材を用いた指導を行っています。
●1年次
学校オリジナル教材(後述)を使用した表現学習
●2年次
小論文トレーニングvol.3/vol.4/vol.5
●3年次
小論文トレーニングvol.6
特化型小論文トレーニング
岩村先生:以前は年間を通して小論文に時間をかけられたのですが、現在は文部科学省のキャリア教育の研究推進校の指定を受けているため、半分の時間数をそちらに割いています。
しかしキャリア教育として、伊奈町役場、伊奈町商工会、伊奈町観光協会とタイアップして、伊奈町を活性化させるためのビジネスプランを作る取り組みでも、小論文で練習してきた論理性や思考力が非常に役立っているので、小論文とキャリア教育の相乗効果を生んでいるのを実感しています。
最終的には役所の方に講評していただいて、優秀作品にはビジネスプランコンテストという全国大会に出品させています。これら全体の取り組みを通して、<推薦入試のための小論文>ではなくて、<これから自分で人生を切り開いていくための小論文>という形ができてきたと実感しています。
――地域とのタイアップがすばらしいですね!また、その取り組みに小論文学習が生かされているというのは、私たちとしても嬉しく感じます。キャリア教育についてもお話を伺いたいところですが…あまり時間もありませんので、今日は「小論文」に絞ってお話を聞かせていただきます。
2.使用教材
岩村先生:第一学習社の添削は、2年生から小論文トレーニングのvol.3からvol.6までを受験したうえで、3年生の7月に、志望先に合わせ特化型小論文トレーニングを受験しています。
第一学習社の教材を導入することが決まった時に、営業の人にプランを立ててもらいました。2年生からのスタートなので、基本もおさえつつ、「反論への顧慮」を扱う小論文トレーニングvol.3から始めることになりました。届いた教材のほかに別なプリントを学校で準備したりはせず、ホームルーム教室で担任が『小論文チャレンジノート』に基づいて指導をしています。『小論文チャレンジノート』の「指導の手引書」は、小論文に苦手意識を持っている先生方に特に重宝されていると思います。
最後まで、先生が苦手意識を持ったままで指導に携わるのは大変ですが、御社の添削テストがあって、プロの添削員が懇切丁寧に添削してくれたもので指導は完結しています。つまり、国語でなくても、専門でなくても、最終的には専門の人が添削をして返してくれるという安心感があります。生徒も添削済み答案をよく見て、友達と見せ合って、喜び合っています。
おもしろいのが、小論文の成績が学力成績順ではないというところです。学力成績順ではふるわない生徒も、小論文では上位にくることがあります。「うちのクラスの彼が(こんなに高い点数を取ったのか)!」と驚く先生もいます。
3.学校オリジナル教材・その他の取り組み
――弊社の教材以外にどのような取り組みをされていますか?
●天声人語の書き写し
岩村先生:1年生のうちは、まず語彙力や時事的な知識力を勉強するために、天声人語の書き写しをさせています。
ただ写すのではなく、全文ひらがなに直したプリントを用意して、それを漢字かな混じり文に書き直す作業をさせ、適切に漢字かな混じり文にできたかどうか採点までをさせます。学校現場ですから、記事はあまり政治的なものなどに偏らないようにしています。
(クリックして拡大。書き写しシート)
また、採点については、採点基準を作っています。1行できたら基本○点、そこから誤字・脱字を減点していくという方式です。辞書も使っていいことにしていますが、制限時間を15分にしていて、書くスピードが落ちるので、使うか使わないかは生徒に任せています。
――これは…「天声人語」という素材はたくさんありますが、ひらがなだけのプリントを作ったり、採点基準を作成したり、かなりのお手間だったのではないでしょうか? 漢字かな交じり文をひらがなに変換する作業だけでも泣いてしまいそうです。
岩村先生:漢字かな交じり文をひらがなに直してくれるページがウェブ上にあるんです。それを利用して、固有名詞以外はすべて平仮名にしています。最初は私が全部やっていましたが、今は毎年1年生の小論文担当者がその準備をしてくれています。
――そうだったのですね。しかし、これだけきっちりと解答や採点基準が用意されているからこその取り組み、という感じがします。
●「ニュースダイジェスト」をホームルーム教室に掲示
岩村先生:第一学習社の添削教材だけではなくて、「第一小論Net」でダウンロードできる「ニュースダイジェスト」を打ち出して、拡大コピーしたものを教室に掲示しています。貼り出してみると、現場から「今月はまだなのか」という声があり、それからは毎月継続しています。6月あたりから9月くらいまでの話題というのは入試に出ることも多いので、生徒もよく見ているようです。
(クリックして拡大。ニュースダイジェスト 印刷用資料。こちらから参照可能です)
――ありがとうございます。この「ニュースダイジェスト」は、他校の先生からも「授業で生徒に配っている」などご好評いただいています。Web版でしたらキーワード検索もできますので、ぜひさまざまな形でご利用いただけると嬉しいです。
●学校図書室のサポート
岩村先生:図書室の司書の先生が、図書委員を使って新聞記事の分野別スクラップを作らせています。図書室に入ってすぐのところに、小論文関係の本とそのスクラップブックがならんでおり、生徒はよく利用しているようです。
こちらも学校全体としての取り組みの一環として効果を上げています。
4.校内の指導体制
――弊社教材のご利用に限らず、さまざまな工夫で生徒さんの力を高めようとしていらっしゃるご様子を伺うことができました。しかし、今のようなご指導の体制は、どのようにして確立されたのでしょうか。その経緯をお聞きしたいのですが。
岩村先生:第一学習社の教材を取り入れる前は、国語の先生が悲鳴をあげるような状況でした。推薦入試の直前になって国語の先生の机の上に添削を依頼された小論文が積みあがるという事態になっており、これではいけないということで、改革が始まりました。
――小論文入試では、かなり専門的な内容に特化したものもありますが、それも国語の先生が見ていたのですか。
岩村先生:そうです。しかし、正直なところ、最初の指導だけで終わってしまっていました。
国語といえども、小論文を専門にやってきた人はいないので、小論文を教えるためには新たな勉強が必要です。ですから、他教科でも条件は同じだと思うのですが、特に理系の先生方は苦手意識をお持ちの方が多く、結局国語教員に回ってくるというのが常でした。
数年前から本格的に校内での小論文指導が始まりましたが、最初は、国語科がリードしてのスタートでした。しかし、改革を進めていく中で、生徒たちの進路に関係なく<文章力・表現力>が絶対的に必要になるだろうという意識が教員間に芽生え始めました。
そうした折に、ちょうど「大学入試改革」が話題になり、生徒も教員も全員で小論文に取り組もうという流れが一気に加速しました。基本的には各クラスのホームルームで担任が指導しますので、教科はバラバラです。今でも現場から「担任が国語の先生のところと差がついて困る」と言われることはありますが、どの教科の先生にも等しく指導に携わってもらっています。
――「国語の先生と差がついて困る」という先生からの声に対しては、どのようにその差を埋めていらっしゃるのでしょうか。
岩村先生:小論文指導に慣れていなかったり、苦手意識を持っていたりする先生への対応策としては、御社の先生にご講演をいただいたことも何度かありますし、個別にアドバイスすることもあります。現場での指導方法について、校内の教員間で意見を言い合える雰囲気が職員室のなかにありますので、個人的に聞いてくる先生もいます。
心配したり不安に思ったりする先生も当初はいましたが、生徒のためだから職員みんなで協力し合っていこうという思いで、つづけて全教員で取り組んでいます。1年生の天声人語の書き写しをさせた後に、時事問題などの話を付け加えてみたり、指導の手引きを使いながら実際に生徒に指導してみたりする中で、徐々に自信もわいてきたようです。小論文入試は、教科を横断したテーマを課されることが多いですから、国語や教科に縛られていては書けないですよね。国語だと表現力重視になってしまいがちですが、理科とか数学の先生から見ると、むしろ内容的なところに言及することが多いので、私は、国語以外の先生方の方が小論文指導の適性があるんじゃないかと思っています。
5.今後のビジョン
――国語科のみの次元から変革を起こされてきたとのことですが、今後どのような目標をお持ちでしょうか。
岩村先生:教材に頼るのではなく、自分たちで問題意識をもって何かを書けるようになるという状態はベストですが、それは高校生にはなかなか難しいですよね。ただ、高校生のうちにそのきっかけだけでも掴ませてやりたいという気持ちはあります。
今はもう<大学全入時代>なので、大学に入ること自体はさほど難しくありません。でも、入ってやめてしまう学生が年間1割もいると聞きます。入れるだけで終わりにはしたくないという願いが、どの教科の先生にもあります。ですから、3年生が推薦で合格してからも、さまざまな課題を与えています。
卒業生が学校に来て、「役に立ってます」という声を聞くことがあります。大学に入ると全国から人が集まってきますよね。高校時代の話をする中で、自分たちがいかに手厚い指導を受けていたのかということを実感するそうです。そのような声を聞くと、うれしいですね。
――本当ですね。卒業生がわざわざ母校に来て、そのような話を先生にしてくる、ということだけでも、その生徒さんにとって本当に充実した高校生活だったのだろうと想像されます。そのように「将来に生きる指導」の実践をお聞きできて、大変嬉しく思います。本日はありがとうございました。
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