鹿児島中央高等学校:学校全体で3か年の小論文指導を行う

鹿児島県立鹿児島中央高校は、鹿児島県鹿児島市にある公立高校です。普通学科のみの高校で、鹿児島大学をはじめとする4年制大学への進学が多く、鹿児島学区内の進学校の中でも高い大学合格率があります。

今回は、2016年度の1~3年生が学習してきた、学年全体での小論文指導の取り組み事例について、お話を伺いました。


【お話をうかがった先生】

kamiaka

国語科 上赤(かみあか) 洋平 先生。
教職歴18年(本校赴任6年目)。進路指導部。

鹿児島中央高校に赴任されてから6年間進路指導部で、進路指導部内ではキャリア教育推進、小論文指導等の仕事に携わってこられたとのことです。



1.学校紹介

――本日はよろしくお願いいたします。さっそくですが、まずは御校のご紹介からお願いいたします。



上赤先生:本校は、明治維新の英雄、西郷隆盛や大久保利通らを輩出した鹿児島市加治屋町にあります。敷地近くに西郷、大久保の生誕地、敷地内に東郷平八郎の生誕地があるなど鹿児島を代表する偉人の生誕地に位置しています。

本校の校是は「自主」、「好学」、「敬愛」で、これをもととした、文武両道を目指した全人教育を実施しています。

進路先としては8割以上の生徒が進学しており、2016年度は、筑波大、大阪大、九州大、鹿児島大などの国立大学に160名、首都大東京、福岡女子大などの公立大学に34名、早稲田大、東京理科大などの私立大学に272名合格しました。



2.使用教材

1年生「現代を知るplus
小論文チャレンジノートvol.2~vol.4

2年生「小論文チャレンジノートvol.6
小論文トレーニングvol.6(添削テスト。リピート添削含む)」

3年生「ステップアップ小論文
小論文模試(第3回と第4回)」

(以上、2016年度実績)



3.指導のねらい・特色

――御校では1年生から小論文指導を行っていらっしゃるとのことですが、指導のねらいについてお聞かせいただけますか。



上赤先生:ねらいのひとつは「小論文試験対策」です。本校は大半の生徒が4年制大学進学志望です。そのため、AO・推薦入試および二次試験での小論文を書く力を身につけさせるという「小論文試験対策」が第一のねらいです。

また、もうひとつのねらいとして、「進路学習」ということもあります。学びたい学問分野の研究内容や最近のトピック、志望大学の過去問等について調べ、小論文を作成する中で自分の進路について考えてもらいたい、と思っています。

このねらいを達成するために、本校の小論文指導の取り組みとしては、2015年度に1年生~3年生までの指導計画を立て、数年それを続けるという計画で指導を始めました。結局2016年度までその計画で実施し、2017年度は各学年担当の小論文指導係の計画によって指導するというように方針が変わりました。私は、2016年度3年生が直接の担当学年です。

参考までに、2016年度の小論文指導をご紹介します。

H28plan
(クリックして拡大)

上赤先生:この表での「小論文指導イメージ」は、「課題設定」「情報収集」「整理・分析」「まとめ・表現」という学習を各学年で繰り返し実施することを示しています。具体的には、①自分の学びたい学問、就きたい職業について考える(課題設定)②自分の学びたい学問、行きたい大学、就きたい職業について情報を集め、整理する(情報収集、整理・分析)③自分の学びたい学問、行きたい大学、就きたい職業に関することをプレゼン資料としてまとめたり、小論文で表現したりする(まとめ・表現)というような内容です。

――4つの学習を各学年で繰り返し実施することで、スパイラルで力を高めていくという形ですね。各学年で取り組まれる「課題」はどのように決められたのですか?



上赤先生:各学年での課題については、学問分野を①人文・法・社会学系,②国際・外国語学系,③経済学系,④医学系,⑤理学系,⑥工学系,⑦農・水産学系,⑧生活・芸術・体育学系の8つに分け、このカテゴリーの中から課題を決めています。

――なるほど、大学の学部系統も意識されての設定ですね。これなら自分の興味のある分野と、進学意識とがリンクしやすいように思えます。
では次に、各学年でのねらい・取り組みについてお伺いします。



上赤先生:小論文指導には、学年ごとにねらいがあります。本校は4~9月の前期と、10~3月の2学期制なのですが、大きく次のように計画しています。

1年生・2年生・3年生のいずれも前期は、学問観、職業観育成のために学部、学科調べを実施します。その後調べた内容をもとに志望理由書を作成させています。1年生の後期には、小論文作成能力育成のために小論文の書き方の基礎を学ぶこと、2年生の後期には学問観および小論文作成能力育成のために各志望分野の学問について調べ、過去問を解くことに取り組ませます。3年生では、10~12月に小論文作成能力育成のために演習を行い、1~2月には小論文入試対策のために過去問演習を行います。

――前期は進路学習、後期は小論文学習と、明確に区分けされているのですね。計画表では各学年の前期の取り組み内容として同じことが書かれていますが、学年によって取り組まれている内容は異なるんですよね? よろしければ、各学年での取り組み内容についてお聞かせいただけると幸いです。
また、後期ではなく前期に進路学習というのは、何か理由がおありなのでしょうか。前期の方が職業意識を高めやすい時期などということがあるのでしょうか…?



上赤先生:進路学習については、例えば2年生では「先生のあしあと」という授業をしています。本校の教師が講師となり、自分自身の学生時代のことを生徒に話すという授業です。前期に進路学習をして後期に小論文学習というのは、進路に対する意識をまず涵養することが重要であるとの観点からです。

――それから、先ほどのお話の中で、1年生から「志望理由書」を作成させていると伺いました。早いうちから進路意識を高めることが大切! というお話はいろいろな学校でお聞きしますが、それでも1年生で「志望理由書」を書かせる学校はまだ少ないのではないかと存じます。この計画になったのは、どういった背景があったのでしょうか?



上赤先生:早い段階で志望理由書を作成させることによって、生徒の学問観、職業観を育成したいという思いから1年次から志望理由書を書かせています。

――1年生の書く「志望理由書」というのは、実際にはどのような出来なのでしょうか? もちろん入試レベルということはないと思いますが…先生方はその志望理由書をどのように評価し、どのように指導されるのでしょうか。



上赤先生:1年生の志望理由書の完成度は当然のことながら高くはありません。しかしながら、志望理由書を作成する過程を通して、学問観や自己の適性について知るきっかけになると考えております。1年次は志望理由書を評価するというよりも、「こんなことに興味があるんだね」とか「この仕事がしたいならこんな学部もあるよ」というように進路指導の材料として使用するイメージです。

――他にも気になる取り組みが見られます。小論文指導の「まとめ」として「弁論大会」にも取り組まれているのですね。これはどのような行事なのですか?


上赤先生:まず、1~2年生全員がそれぞれ弁論を作成します。それを学級内で発表し合い、学級代表を選出します。学級代表は弁論大会予選を経て、優れた弁論をした者が本選に出場します。本選に出場する生徒の発表はレベルが高いものが多いですよ。


――本格的ですね! 本選での発表を聞き、他の生徒さんも大きな刺激を受けそうですね。



4.指導体制について(先生方のご様子)

――先生方はどのような指導体制をとっていらっしゃるのでしょうか。



上赤先生:本校では各クラスの副担任が中心となって小論文指導をしています。LHRを担任が、総合的な学習の時間を副担任がそれぞれメインで担当するというように業務を分担しております。ただ実際には担任も含めて全職員で指導する機会が多いです。中でも、受験で小論文が必要な3年生がだいたい3割くらいいるのですが、全職員で指導にあたっています。各教師の専門性を生かし学校全体で3年生を指導するシステム、雰囲気があり、例えば養護教諭の先生にも看護学科志望者の小論文を見ていただいています。

――養護教諭の先生も指導に参加されるのですね! 確かに看護系志望の生徒さんにとっては、身近な専門職と言えそうですね。しかし、「文章指導は国語の仕事では?」というお考えの先生もいらっしゃったのではないでしょうか。決して国語の先生だけではない、全職員での指導体制を、どのようにして作り上げてこられたのでしょうか?



上赤先生:私が赴任した時からこのような全職員指導体制がありましたので、成立までの動きはご説明できないのですが…ただ、国語科の教師が全ての生徒の文章指導をしています。各教科の先生は、各先生の専門に応じて小論文の内容指導を中心に行っています。



5.生徒さんの様子

――小論文学習に取り組まれた結果として、生徒さんのご様子はいかがでしょうか。



上赤先生:大きく4つ挙げられます。
1点目は、リピート添削(リライト)で力がついたことです。多くの生徒からリピート添削を通して、「説得力のある小論文の書き方が理解できた」という声を聞くことができました。
2点目は、大学についての理解が深まったことです。志望理由書を作成するにあたって、大学について深く調べることが必要になるためです。
3点目は、センター試験後の個別指導でかなり力がついたことです。低学年からこつこつと取り組んできたためか、個別指導を行った際の生徒の伸びは、目を見張るものがありました。
4点目は、全体を通して、ということになりますが、自分の進路について考える、格好の機会が作れたことです。



6.今後のビジョン

――今後のご指導にあたっては、どのようなビジョンをお持ちですか。



上赤先生:総合的な学力育成や新大学入試への対応のため探究活動を取り入れなければならないと考えています。2016年度まで、小論文指導は主に総合的な学習の時間を使っていたのですが、2017年度からは、課題研究を実施することになりました。1年生の総合的な学習の時間で「学問探究」という取り組みを実施しました。各自が興味を持っている学問について7月から調べ始め、学級内でのポスターセッションを全員行います。ポスターセッションを経て、学級代表による学年発表をするといった全12時間の取り組みです。また、総合的な学習の時間ではありませんが、「科学と人間生活」の授業においても課題研究的な取り組みをしております。今後は、課題研究をすすめる課程で小論文作成能力もつくような指導の工夫をしたいと考えています。

――お聞きした2016年度のお取り組みも、かなり高いレベルで確立された指導プランかと感じましたが、次を見据えて改革を進めていらっしゃるのですね。今後のご指導の経過につきましても、またお話を聞かせていただけたら幸いです。本日はありがとうございました。


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