福井県立丸岡高校:地域とのつながりを重視しながら、小論文指導を通して社会に通用する人材を育てる

福井県立丸岡高校は、福井県坂井市にある公立高校です。今回は、弊社営業担当者より、昨今の教育改革の流れをいち早くつかみ、さまざまな教育実践を行っている先生がいらっしゃるというお話を聞き、取材させていただく運びとなりました。
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【お話をうかがった先生】

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校長 河野 和博 先生(左)。
教頭 島田 芳秀 先生(中)。
数学科 南 良一 先生(右)。
教職歴35年(本校赴任5年目)。進路指導部主任。学校改革推進チームリーダー。



1.学校紹介 校長先生の語る、学校全体の取り組み

――本日はよろしくお願いいたします。



南先生:よろしくお願いします。今日はまず、校長と教頭から、本校についての説明をしていただきます。

――そうでしたか。このコーナーで、校長先生、教頭先生からお話をお聞きするのは初めてです。お忙しい中、誠にありがとうございます。それでは、よろしくお願いいたします(緊張)。



校長先生:ではまず私の方から。昨日も全国の校長会議に行っていたのですが、新しい学習指導要領の目玉であるアクティブ・ラーニングとカリマネ(カリキュラム・マネジメント)に着手し始めた学校は多いですね。本校でも2017年度の後半から検討を進め、18年4月に新たな「スクールプラン」を作成しました。

――この横長の表ですね。

schoolplan(クリックして拡大)

校長先生:そうです。これはホームページにも載せています。これまで本校の「校訓・目指す生徒像」は「文武両道」でしたが、これは全国色々な学校が取り上げていますので、新たに英語の“Think globally, act locally to make your dreams come true.”を策定しました。簡単に言えば、グローカルの教育をしっかりやっていって、地元で活躍できる有用な人材を育てたい、ということです。

この校訓の“dreams come true”、日本語では「自己実現を達成する」としています。厳密に言えば少し違うのですが、敢えて日本語ではこう書きました。国際化にも力を入れていきたいということの象徴として、英語で書くことにしました。

それに基づいて、下の学校教育目標(方針)も「地元への誇り、愛着」と設定しました。本校は地元のつながりが非常に強い学校なので、これはもう絶対に外すことはできません。そして、自己肯定感、自己有用感の高い生徒を育成したいと思っています。どこか自信がなさそうに見える子どもたちに、3年間本校で教育を受けて、丸岡高校に来てよかったなと思える何かをつかんで、卒業していってほしいという思いも込めています。そのための方針として、「基礎学力の定着と協働学習の推進」「総学を中心とした探究の学びの推進」「特別活動、部活動を中心とした情操教育」の3点を大事にしていきたい、という思いをまとめています。

具体的に取り組むにあたっての課題はたくさんあるのですが、特に今年度は「広報」、「探究・国際化」、「授業力向上」の3つに絞って取り組んでいこうと考えています。それを説明したのが次の表です。

kaikaku(クリックして拡大)

校長先生:特に重要なのは「広報活動」です。「見える化・魅力化プロジェクト」として、地元の中学生や保護者さんたちに、本校で行っている活動をしっかりアピールして、本校の魅力を知ってもらう取り組みを進めています。例えば「丸高通信」という広報誌を中学校へ持って行き、そこで中学校の先生と仲良くなりましょう、という活動を行っています。そこから次第にボランティアなどの交流が生まれますので、中学校の生徒に「丸岡高校に行ってがんばりたいな」という気持ちになってもらえるのではないかと思っています。

私立高校の攻勢に負けないよう、全教員が危機意識を持って取り組むというところから本校はスタートしました。危機意識の共有ということは基本的にできていると思います。どの教員も、今のままではまずい、という気持ちを持ってくれていると思います。

「探究・国際化」と「授業力向上」は、これから動き出すところです。この「探究」については、南先生が中心になって、力を入れて取り組んでくれています。この取り組みと、今日の小論文のお話がつながっていくはずです。

というところで、あとは南先生にバトンタッチします。また何かありましたら、いつでも呼んでくださいね。(退出)

――ありがとうございました!



2.指導のご様子

2-1.『小論文チャレンジノート』を用いた手厚い事前指導

南先生:では、小論文指導の説明に移ります。僕はここに来て4~5年目で、2年目に進路に行った時から小論文の担当を始めたのですが、その時に従来のやり方を改めました。

それまでは単発的に小論文テストをやっており、業者の選定もまちまちでした。期末考査が終わって特別時間割の時にちょっと小論文テストを入れてみようか、という感じで実施し、その後の指導もなく、答案が返って来たら返していただけ、という感じでした。そこでまず、一括して1年から3年まで第一学習社にお願いしようと決めたのです。付録教材の『小論文チャレンジノート』もvol.1~6まで、一通り全部見て採用を決めたつもりです。1年から3年まで一括採用することによって、講演とか、ちょっと無理も言えますしね(笑)

――ありがとうございます(笑)



南先生:小論文テストに取り組む前は、総合的な学習の時間を使って、必ず事前指導することにしました。1年生では年度末に1回、2年生は1学期の7月と3学期の2回、3年生は全体指導ではありませんが、AO・推薦入試で小論文が必要な生徒には、10月初旬の2日間、60分×2で、小論文講座を開講しています。僕が講師をしています。以上が最初に作ったシステムです。

この取り組みを実現するため、教員向けに、小論文の講習会も実施しました。第一学習社から小論文の先生に来てもらって、担任・副担任を揃えて、生徒への指導方法について講義してもらいました。その経験を生かして、『小論文チャレンジノート』の事前指導、その後テスト受験を実施しました。

添削済み答案が返ってきたら、その結果を生徒にきちんと読ませる時間を確保しています。こういうことを始めて、いま4年目です。

『小論文チャレンジノート』は、注釈がものすごくいいですね。順を追った構成になっていて、時々コラムみたいにおもしろいことも書いてあったりして。

――それはよかったです。担当者も喜びます。



南先生:「ここの部分をしっかりやっていけば、ここは省略してもいいかな」などと考えながら活用しています。教員の指導の際は、正担任・副担任2人が担当します。

効果についてはまだわからないところも多いのですが、3年前から始めた学年は、AO・推薦入試で合格を勝ち取ってきていますね

2-2.新聞記事を読み、意見を書く朝学習で、知識を高める

南先生:小論文の指導はこれだけではありません。朝学習の時間を使って、毎日10分間新聞を読ませています。3年になったら、10分×5日間で50分というのをひとつの単位として授業形式にしています。1サイクルで何かトピックを決めたら、「1人でその記事を読む」「先日の記事の反対意見を読む」「感想を書く」「グループで話をさせる」「意見交換・発表」という活動を繰り返していくのです。これによって、話し合いでもけっこう発表できるようになるといった効果がありましたね。

――新聞記事の選定は、学年の先生方がされるのですか?



南先生:そうです。教員自身が選定します。例えば、僕の当番だったら僕がする。

――おお、大変ですね、先生方も。



南先生:多分慣れたら大丈夫ですよ。この選定には、先生の個性が出ますね。

――そうでしょうね。具体的にはどのような展開で活動が進むのですか?



南先生:例えば夫婦別姓を扱うのであれば、それについてどのように思うか、月~火曜日で賛成派と反対派、それぞれの記事を読ませる、水曜日に感想を書かせる、木曜日はグループで話し合う、最後の5日目、金曜日に、グループの代表者が「私たちの班ではこういう意見が出ました」と発表する。それで、出た意見をクラス担任が要約するのです。用意したシートにすべての意見を打ち込んで、クラス毎に集約して、学年のクラスの意見として教室に貼るのです。

例えば…際どいことも話し合いさせていますよ。日本の大学は、防衛省の資金提供を受け、軍事に応用できる基礎研究をしていいのか、とか。

――難しいテーマですね。



南先生:3年生になると、10分でも結構な量が読めるようになるんですよ。
これは優先席の存在、優先席はこのような文章を読ませて、優先席って本当に必要なのかなということを考えさせたときの資料です。
shimbun1(クリックして拡大)

南先生:複数の記事を読んでから書かせてみると、結構おもしろいことを書いてくれますよ。それを担任が読むとなると大変ですが、自分で書いて、グループで話させて、発表させるだけです。生徒は記事や意見を書くレジュメを綴じるバインダーを持っていて、終わったら毎日綴じておきます。

――なるほど、書けているか書けてないか、どんなことを書いているかというチェックまではしないのですね。



南先生:しませんね。でも、机間巡視は当然しますので、そこでどんなことを書いているのか、はざっと見ます。最初のうちは集めて、ちょっと見て、ハンコだけ押すこともしましたが、次第に集めなくても、どんな子でもやるようになっていきます。これは小論文とは全然異なる活動ですが、小論文の基礎にはなるのではないかなと思っています。

――そうですね。なると思います。入試でどんな文章が出るかはわからないわけですから、その時にこのような形で新聞記事をたくさん読めていれば、いざという時のネタになりそうですよね。


――あれ、このシートは何でしょうか?

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南先生:これは5日間の取り組みの中で出てきた意見を、担当教員が打ち込んだものです。

――改めて見ると、10分で読んでこれだけの意見を書いて。大変なことですね。



南先生:レベルの高い学校だったら、もっとスムーズにできると思います。最初はできませんよ。でも、このようなことをやっているから、生徒に表現力がつき、物怖じせずに発表できるようになるのだと思います。新しく3年の担任になった先生が「こいつらこんなことできるんけ(ここまでできるようになっているとは思わなかった)」とも言っていました。これは1、2年生での経験があるからでしょうね。

――生徒さんもある程度自信を持って受験に臨まれる、そこまではいかないですか。



南先生:知識が少ない子は多くいます。生徒の中にある程度知識などがないと、感想を書くにしても、短絡的に「よくないと思う」と書いたりすることもあります。もちろん最後までそこにとどまる生徒もいますよ。でも、じゃあやめようという理由にはならないですよね。まあ、これはある種の「財産」です。

2-3.小論文で得た力を生かして、探究活動でグローカルに学ぶ

南先生:それから、今は小論文と、「探究」をしないといけないでしょう。本校の総合学習で「Mプロジェクト」と呼ぶ取り組みがあるのですが、これが「探究」です。本校はここにも力を入れて、「私は○○を探究してきた」と言えるような生徒にしたいと思っています。でも、探究をするにしても、絶対記述する力、論理的に書く力というのは大切なのです。だから小論文だけはきちっと3年間で4回やる、というスタンスを維持しています。

――この「Mプロジェクト」で探究する題材はどのように設定されるのですか?



南先生:去年の取り組みをご紹介すると、まず1年生は坂井市と連携しました。最初、僕らが市役所に行って行政の人や議員の事務局の人と話をしたのですが、そこで「受験云々ではなく、ふるさとのことをよく知らずに大学に行った者に、Uターンで戻って来いと言ったところで、知識がないから戻って来るわけがない」「義務としてふるさとのことを知らせないといけないのではないか」と市の人に話したら、賛同してくれて、学校にも来てくれました。それをきっかけとして、1年生全体が坂井市の何らかのことについて探究して調べて、ポスターにして発表して、という活動を7回実施しました。

3年生は、地域のリーダーの人たちを呼んで話をしてもらい、どこに問題があるかを考えさせる講座、飛行機をうまく飛ばす方法を考えさせる講座など、生徒が探究したくなるような講座を複数用意しました。2年生も同じような感じです。例えば『源氏物語』を読もう、など。教員が10人ほどいて、これをやるからおいで、とメンバーを集めて、それを探究する、という具合です。

でも、これからは「ふるさと」は1つ押さえておきたいと思っています。それから今校長からもお話がありましたが、世界に目を向けさせて問題点を考えさせたいですね。「ふるさと」と「国際化」、この2本立てでプロジェクトを進められたらと思っています。グローカルとは「ふるさとの課題を世界のいろいろな事例と比較しつつグローバルに考え、再びふるさとに特化したよりよい解決法を見つける考え方」だと本校では定義しています。


教頭先生:いま海外のことが出ましたので、私から補足をします。Mプロジェクトで今後進めていきたいのは、国際協働探究学習です。これは海外のパートナー校と一緒に地域の抱えるさまざまな課題の解決について探究するというものです。「2030年問題」とも言われることがありますが、今の子どもたちが社会の中心になる、2030年に向けて、いわゆる答えのない課題をどう解決していくかということを、海外のパートナー校と考えていこうとしています。

――すごいですね。海外の学校と、実際にどうやって協働していくのですか?



教頭先生:福井県は、すべての小中高、教育委員会、教育施設にスカイプ、テレビ会議システムが入っています。実は来週、香港の学校とスカイプで交流しようとしています。昨日も県内の羽水高校と結んで、テレビ会議をしました。このような「国際協働探究学習」が1つの柱になっています。

これは県からISN2.0(innovative school network)の指定を受けていますので、県の予算で進めていきます。Mプロジェクトの中で中心となって、海外の高校と地方創生とか丸岡が抱えているテーマについて協働学習していく。そういったことを進めていくことになります。
もう1つのローカルな方面の取り組みでは、「丸高カレッジ」という、丸岡高校を生涯学習センターにしていこうという取り組みを行っています。地域の方も講座を受けられるように、本校の教員や地域の方を講師に迎えて、そこでいろんなふるさとのことについて講座を開いていこうと思っています。それによって開かれた学校、いわゆる生涯学習センターとしての機能を高校に持たせるのです。県内の他の学校にない取り組みかと思います。そういったことも含めながら、Mプロジェクトを進めていこうと計画しています。

――丸高カレッジには、高校生も参加されるのですか?



教頭先生:高校生も参加しますし、中学生も、また一般の方も参加します。第1回は丸岡城の歴史、第2回は英会話でおもてなし英会話講座、そういった形で中学生から地域の方まで誰でも参加できるようなテーマにしています。

(編注:取材は5月に行われましたが、実際の丸高カレッジは第1回が「幕末の丸岡藩主有馬道純の人物と業績を探る」、第2回が「江戸時代のマジックとなぞなぞ遊び」でした。高校のホームページもご参照ください)

――おもしろそうですね。いろんな形でつながりが生まれそうですね。まだこれは企画段階なのでしょうか?



教頭先生:そうですね、これからですが、6月に第1回が開かれることは決まっています。

――さまざまな取り組みが、もう動いていらっしゃるわけですよね。



南先生:その根幹を成すものとして、この小論文とか新聞等の時事問題の指導とか、そういったものをきちんとしておきたいと思っています。


教頭先生:基礎がないと探究活動もうまくいきませんから、そこはきちんと押さえておく、というのが基本の考え方になっています。情報を収集する。そして、それを交流して、意見を交わす。それをまとめて、そして発信する、という流れですね。

――特に意見をまとめて発信するというところが、小論文の位置付けになりますね。


2-4.入試対策の小論文講座で、達成感を与えつつ小論文を書く力を高める

――それでは、3年生の小論文対策講座のお話を聞かせていただけないでしょうか。



南先生:10月の推薦入試対策の小論文講座には、20人ほど集まってきます。事前に、生徒には『小論文チャレンジノート』に載っている良問を1つだけ選んで、実際に書かせています(全員同じ課題です)。そして当日に持って来るように、と指示しています。生徒が選んだ題材について、僕も小論文を書いてきます。そして読み合わせをして批評し合います。最近は第一学習社のプロの先生が選択した題材で書かせて、実際に生徒が書いてきたものを持ち寄ってグループを作り、そこで輪読をする、つまりみんなに複数の答案を読ませるわけです。そうしたらいろんな視点が出てくるでしょう。

――そうですね。



南先生:次に大きい紙に、掲示用みたいにして「ここがよかった」などと貼っていきます。もちろんよくないところも付箋に書いて貼らせ、自分に寄せられた感想をKJ法のような形で分類し、それを持って帰って、もう1回同じ題材で書かせます。で、2日目に改めて読んでみるのですが、すると内容が大きく変わるので、生徒はなんだかできるような気分になるのです

――いや、実際に質の高い答案になっているでしょうね。



南先生:講座2日目には、夏に行われた教員向けの講習会で、講師の先生に添削してもらった答案(実は私が書いたもの)をまず「どこが変?」と話し合わせてから、「教員の研修ではこういうところがダメだと言われたよ」などと言って見せています。生徒に「こんなにうまく書いているように見えるのに、ここがダメなのか」というのが具体的に示せるのです。僕はほとんどファシリテートしているだけで、何も教えていません。

1日目の最初に基本だけは押さえますよ。講習会で習ったことを、問題解決型(問題点を先に示せ)とか、主題提示型(言いたいこと、主題を先に書け)とかね。ただそういうことは10分程度話すだけです。後は生徒に自分でやらせています。これで60~70分、充実した取り組みができます。これを僕が2日連続でやるから、じゃあ、他の先生も仕方ない、あとの個人別の小論文指導をやっていこうか、と思ってくれるのかもしれません。

この講座、生徒からは結構評判がよいのです。またやってほしいとか、勉強になったとか。

――そうですね。生徒さん目線から見ても、とても充実した学びの時間になっていると思います。



南先生:そして、この学校の生徒として推薦を受ける、例えば、福井大学の推薦を受ける生徒には面接の担当教員と小論文の担当教員を1人ずつ割り当てます。

ここ数年は僕が割り当てを考えるのですが、依頼する先生に「この生徒を見てやってほしい」「何とか合格させてやってほしい」と。生徒は、必死でがんばりますよね、毎日のように。教員は夏に受けた教員向けの講習会で、添削の仕方もわかっています。生徒にもチャレンジノートの経験があるので、ある程度自信もついています。

生徒たちは、年に1~2回きちんと小論文学習をやっています。それなら先生方にも何らかの体験をしてもらってから、生徒に向かってもらわないといけないと思っているのですよ。それもあって、生徒1人ひとりが先生を頼るようになります。だいたい1人の先生が4~5人の生徒を受け持っていると思います。


3.指導の成果 自己肯定感の伸長と、進学実績の向上

――受験間近の3年生はやる気があるということですが、1、2年生のうちはまだ、「何でこんな勉強しないといけないのだろう」という雰囲気もあるのですか?



南先生:それはあると思いますよ。1、2年生は「なんで突然小論文!?」とね。ただこの取り組みを始めて4年目になるので、少なくとも教員には「小論文は大切だ、だから進路も小論文指導に力を入れている」という認識が浸透していると思います。

――先生方がしっかりと手綱を締めてらっしゃるわけですね。



南先生:実際は僕も学年の様子を見て回りますが、きちんと押さえるところは押さえてくれています。『小論文チャレンジノート』から課題を出して、「今日は次のページやって来てね」「次回、そこを説明するからね」といった具合にやってくれていますから。

――すごい取り組みですが、最初、他の先生方から反対などはなかったですか?



南先生:ありましたよ。一体何をするつもりやと。今まではただテストを受けて終わりだったのに、チャレンジノートでの指導前に、第一学習社から小論文の先生が来るわ、指導を受けなさいと言われるわ、それは嫌だったでしょうね。しかも夏休みに入って、教員全体対象の指導者講習会も出席してくださいと言われるし。

でも、本校は、センター試験を突破して国立に進学する生徒も多少はいるけど、やっぱり小論文と面接で突破していく生徒を増やしていかないといけない、というのがこの学校に来てすぐわかったのです。

今は大体の先生方が、こういう指導をやるものだ、と思っていると思いますよ。ただ事前学習シートってあるでしょう。あれは一切使っていません。だって、あれは試験と同じものをさせることになるでしょう? それでは意味がない。私たちはそこを補うため、自分たちで指導をするのです。

――なるほど。そのように弊社教材をご利用いただけているなら、私たちとしても嬉しいですね。



南先生:小論文トレーニングの点数を見ると、継続的に点数がよい生徒は、実際に入試での出来も抜群ですね。だから、あの点数には推薦合格と正の相関関係があるなと思っています。小論文トレーニングで高い点数がとれる生徒は、やっぱり受かっています、間違いなく。

――そうですか。そうおっしゃっていただけると心強いです!



南先生:入試でいろんな力が総合的に試されるようになって、いわゆる狭い意味の学力がない生徒でも大学に合格してくるので、大学が「まあいいやろ」と認めてくれる、何らかの力はついているんじゃないですかね。

はっきりとは言えませんが、小論文と面接の直接的な対策を行うだけでは力はつかない。総合的な学習や、この朝の学習で得た力が、いろんなところでつながっているのではないかと思います。

例えば、昨年度は、福井県立大学に9人受けて、9人全員が受かりました。

――100%!



南先生:100%。進学校でもありえない9分の9。でも、その子たちの小論文の点数を見ると、こいつら書けるようになったんだって思いました。書けるから、合格してくるんだ、と感じましたね。

――嬉しいですね。私たちも嬉しいです。そういう結果につながって。



4.まとめ 入試改革を見据えたうえでの、高校の戦略

――大学入学共通テストで記述式問題が出されるということで、その対策という意味合いでも、私たちの小論文教材がお役立ていただけるところもあるのではないかと思っています。ただ、「小論文」と言っているだけでは、どうつながるのかが見えにくいとも思うので、何かしらの工夫が必要だとも考えています。その辺りに関して、何かヒントをいただきたいのですが。



南先生:僕は数学ですが、もう今年の1年から共通テストになるでしょう。で、去年の11月くらいにプレテストを解いてみましたが、あれは格差を生むだけだと感じました。

数学における「記述」なんて、小手先だけで、マークでもいいようなことしか書かせられないですよ。数学は何かを求めたい、というのが中心にあって、思考を巡らせながらいろんな過程を通って、解答を見つけ出すものでしょう。人の解き方を後追いしたり、日常生活のものに、敢えてつなげてやろうとしたり、会話的に書いたり…「そんなのいらないじゃん」と思います。数学なら純粋に「これを求めたい。ではあなたはどのように考えますか」と問うのが思考力を試す問いなのです。解答へのストーリーを作らせる問題が私は好きですね。しかし共通テストの試行では、数学の原理と言うか、根底を探らせるものはよかったと思いますが、なかなか「思考力」を問うまでは、時間的に限界があるのだと思います。形式に慣れていない、ということもあって、僕はあれを70分では解けませんね。

だから、余計に小論文をしたいのです。なぜなら、今は悲しいかな、正直言って、そのテストで突破できない現実があるからです。

――そういう発想なのですね。



南先生:先日、金沢大学の学長とラウンドテーブルで話ができる機会があったのですが、学長が、7対3だって言うんですよ。7は今までのような学力を持った生徒、3はポートフォリオやアクティブ・ラーニングで独創的な能力・経験を持ってきた生徒。そういう比率で生徒をとりたいとのことでした。「官僚とイノベーター」みたいな発想をしているのかな、と思うのですが、絶対7は必要だと。でも、3の生徒がいなかったら7が死んでしまう、ということのようです。3というのは、総合的な学習等でいろいろな活動や経験をしてきた人材ということですね。

――つまり、金沢大学が必要とする学生の比率、ということなのでしょうか。



南先生:でも、文科省も3と言っていますからね。AO・推薦で3割受け入れなさいとね。本校の入試の傾向としては、7の割合の中で勝負する生徒もいますが、ほとんどは3の方です。それなら、新しい共通テストを突破するというよりも、考える力、書く力をつけて、自分をPRできるようになることを目指したい。大学は推薦・AOでも基準を満たせば合格を出してくれると言うのですから、そこで力を発揮してくれればいいですよね。

校長の話にもありましたが、実情は生徒減もあり、学校の存続自体に危機感を持たなければならない状況なのです。結構複雑なんですよ。生き延びなければならないのです、学校も。

――そうですね。先ほどのお話と共通テスト・入試対策のお話は、なかなか複雑ですね、まさしく。



南先生:受験校なら共通テストに適応させる授業の取り組みを考えるのでしょうが、本校では全体の取り組みにはできません。本当に共通テストの結果で勝負させる力をつけていく生徒と、AO・推薦入試で勝負する生徒は、指導を分けないといけないと思っています。分けなかったらどっちつかずで両方ダメになってしまいます。

でも、これまでお話ししてきた取り組みは、受験が土台にある発想ではないんですよ、人としての力をつける、社会で生きていくための力をつけさせたい、というのが土台です。さっきの「ふるさと」と一緒で、「ふるさとのよさ」を知らせないと将来地元に帰って来るはずがない。だから、校長、教頭、他の教育委員会の人も「ふるさとに愛着を持とう」などと言いますが、本校では「ふるさとを自ら愛おしく思ってくれるような教育をしよう」と考えています。ただ「愛せ」と言うだけでは愛するわけがないじゃないですか。

――そうですか?



南先生:自ら愛おしく思ってくれるための仕組みをどのように作っていくかが大事なんです。学校の中でも最初は「地元への誇り・愛着を促し」などの文章だけだったんですよ。こちらが地元を知るための教育をしてやって、初めて愛してくれるのであって、「ふるさとを愛しましょう」というスローガンはやっぱりおかしい。ここの校長のいいところは、入試のことは頭の中に入れてやっているだろうけれど、僕が「批判されようが、入試実績が多少落ちようが必要なことはやりましょう」と言ったら、「そうやな」と言ってくれるところがすごくありがたい。小論文も基本的にはそこから出発しているのです。だから、副次的な効果ですが、例えば新聞記事を読ませて時事問題を知るということも、世間に出て決して馬鹿にされないし、いいことだと思います。こんな考えが教育の基本ベースにあるということです。

これを推薦に活かそうと思う先生がいても、別にそれは思ってくれればよいのです。僕にもそれは多少あります。でも、全員に課している理由はそれです。


南先生:この総合学習での小論文指導が教員みんなの納得のもとできちんとできるようになったのは、3年がかりでやっと、というところです。今までは負担感ばかりでしたね。「働き方改革」のこともあるので、なかなかすっとは導入できないのです。「なんでこんな負担になることをするのか」とね。定期考査が終わって、生徒も教員も楽になった時に、小論文をやれと言うわけですから、先生方も最初は大変だったと思いますよ。

ただ一方で、3年やったら僕はもうやりたくないな、とも思います。違う人が違うことをやった方が面白い。3年間同じことをやっていると、もうこのぐらいでいいやって慣れてしまうんですよ。だから4年目に引き継いでくれるであろう人に、あまり口出しはしません。引き継いだ人に、新しい発想でやって欲しいのです。そうしないと学校って進化していきませんからね。だから絶対に総合的な学習も来年は誰かに引き継ぎたいと思っています。

第一学習社の教材は、非常にうまくできています。僕はいつもこう言っています。「担当変わったら、違う業者もよく見てみて、よかったら変えればいいよ」と。

――え、そ、そうなんですか…?



南先生:でも、今まで僕がいろいろ検討して、3年間、第一学習社に任せようって思って、うまく変わっていきましたから。基本的にはそれを踏襲していくと思いますよ(笑)

――入試対策という枠組みにとどまらない、本当に生徒さん、そして地域のためになる教育をしなければならない、という目的のもとで、小論文を使っていただけるとお聞きできて、私としても本当に嬉しいです。本日はどうもありがとうございました。

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