閑話休題「《お薦め本》その1」

神里達博著『文明探偵の冒険 今は時代の節目なのか』(講談社現代新書)

 2016年、イギリスのEU離脱、アメリカのトランプ大統領誕生と、世界を震撼させるようなできごとが続き、時代が大きな曲がり角にきているのかもしれないという予兆を感じさせられました。それは急速に進んできたグローバル化に対して、イギリスやアメリカの人々がNOを突きつけたことを意味しています。更に、民主主義の限界ひいては終焉を意味しているのかもしれません。

 「文明探偵」とは、神里氏によると、「『科学』と『歴史』という、現代における『直交する2つの強力なモノサシ』を使って、私たちの世界観の淵源を探る者」ということです。

 この本では、神里氏の分身である文明探偵が、「『時代の節目』とは何か、そして今の時代は節目に差し掛かっているのか、という、これまた大変に大風呂敷なテーマを掲げ、モノとコトバの世界を縦横無尽に旅する、ある種の『紀行文』」(現代ビジネス2016.12.29「人類はいま、大きな『時代の節目』を迎えているのか?」より)なのです。

 「その旅で我々が頼る羅針盤は、S極とN極のように相反する視座を指し示す。一つは、『歴史から見た科学』、もう一つは『科学から見た歴史』である。科学は、我々のありようを、客観的に見せてくれる強力なツールである。」と、神里氏は述べています。


 東日本大震災、福島第一原発事故以降、「科学技術」に対する批判が声高に言われますが、人間の生活に科学技術は切っても切り離せないものになっています。その「科学」を一つのモノサシとして歴史を見て、時代がどのように変わろうとしているのかを考えていこうというものです。
 時代の節目かどうかを最終的に決めるのは歴史でしょうが、そのときを生きる当事者として、その時代をしっかりと見つめる義務があると感じさせられます。


 さて、「平成29年度大学入試センター本試験」の国語第1問の評論は、小林傳司(ただし)氏の「科学コミュニケーション」からの出題でした。小林氏は、大阪大学コミュニケーションデザインセンターの教授です。大阪大学コミュニケーションデザインセンターは、2005年に設立されました。
 そのセンターの設立には、当時副学長であった鷲田清一氏が大きくかかわっています。ここでともに研究していたのが神里氏であり、更には、平田オリザ氏もここでコミュニケーションの研究をしていました。そういう意味でも、神里氏の論考には、注視する必要があると思われます。

『文明探偵の冒険 今は時代の節目なのか』 講談社現代新書、2015

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