第11回 山田昌弘

■著者紹介

 1957年東京都生まれ。中央大学文学部教授。
 東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学後、東京学芸大学教育学部教授等を経て現職。専門は家族社会学、感情社会学、ジェンダー論。
 東京学芸大学助教授時代に「パラサイト・シングル」を命名、また近年は、新書『「婚活」時代』の中で、白河桃子と共に「婚活」という造語を考案・提唱した。
 『パラサイト・シングルの時代』(ちくま新書)、『少子社会日本―もうひとつの格差のゆくえ』(岩波書店)、『家族難民』(朝日新聞出版)等著書多数。

 現在、少子高齢化が急激に進行しています。さまざまな分析や対策が議論されていますが、少子化は止まりようがありません。昨年(2017)河合雅司氏が著し、ベストセラーとなった『未来への年表 人口減少日本でこれから起きること』(講談社現代新書・2017.6)の中で、少子化によって生じる人口減少について、河合氏は「人口減少をめぐっては、近年、衝撃的な2つの数値が相次いで公表された。その1つは2015年発表の国勢調査で、人口減少が実際に確認されたことだ。総人口が約1億2709万5000人となり、5年前の前回調査に比べて約96万3000人減ったのだ。1920年の初回調査から約100年にして、初めての減少となった。もう1つは、翌2016年の年間出生数が初めて100万人の大台を割り込み、97万6979人にとどまったことである。」と述べています。更に、「国立社会保障・人口問題研究所が『日本の将来推計人口』(2017年)を5年ぶりに改訂した。それによると、2015年時点において1億2700万人を数えた日本の総人口が、40年後には9000万人を下回り、100年も経たぬうちに5000万人ほどに減る。」と述べています。このままでいくと、ものすごいスピードで人口が減少していくことは間違いありません。

 さて、今回取り上げる山田昌弘氏は、社会学者としてさまざまな調査を行い、家族のあり方や若者の置かれた社会状況を分析してきました。1999年に『パラサイト・シングルの時代』(ちくま新書)を著し、大きな反響を呼びました。「親に基本的な生活を支えてもらって、正社員としての収入をすべて『おこづかい』として使えるような立場の親同居未婚者に対して、まるで親に寄生しているということで、『パラサイト・シングル』という言葉をあてたわけです。」(『底辺への競争 格差放置社会ニッポンの末路』朝日新書・2017)と述べています。当時のパラサイト・シングルの親たちは、高度経済成長期に育ち企業に入社し、豊かな生活を築いていましたので、パラサイトされてもやっていけました。また、パラサイト・シングルたちも、「本人が望めば、すべての男性が正社員・正規職員になれる。本人が望めば、すべての男性が結婚でき、かつ、離婚しない。正社員・正規職員の夫が専業主婦の妻や子どもを養うような『標準家族』をつくることができる」(『底辺への競争 格差放置社会ニッポンの末路』朝日新書・2017)と考えていましたし、実際そうなることができたのです。しかし、現在ではその性質が大きく変容し、親と同居しなければ若者の暮らしが成り立たない状況が急増しているのです。1990年代ころから、経済成長がストップし、バブルの崩壊、グローバル化の波等による経済構造の転換が起こり、フリーターに代表されるような「非正社員化」が若年層で進行します。日本型の雇用慣行、つまり、新卒一括採用、年功序列慣行のために、いったん正社員、正規職員のルートを外れてしまうと、挽回が非常に困難で、それ故、親と同居しなければ経済的にやっていけないのです。山田氏は「『パラサイト・シングルの時代』の中では、『パラサイト・シングルは日本社会の行き詰まりの象徴』とも書きました。『親と同居して、見た目には派手に消費をしているように見えるけれども、実は結婚せずに子育てをしないことで得ている豊かさでしかない。結局それは、少子高齢化につながり、日本社会は一時的な景気に浮かれているようであっても、将来的には経済が生き詰まるのではないか』という懸念を示したのです。この予測も、はからずも心配したとおりになり、当たってしまいました。」(『底辺への競争 格差放置社会ニッポンの末路』朝日新書・2017) と、将来このことを予想していました。 しかし、対策が遅れた、言わば、失われた10年、20年であったとしながらも、山田氏は必要な対策も考えています。
 少子高齢化の問題は、小論文入試に頻出しています。しかし、経済状況や日本の社会システム等の問題が複雑に絡み合っていて、単純にこれが原因だと特定はできません。そのため、具体的な対応策を述べることも容易ではありません。山田氏は、さまざまな調査・研究を行い、データに基づき分析してきました。山田氏の示す見解や豊富なグラフや図表を参考にして、この問題について、きちんと考えておく必要があります。

 

■山田昌弘のここを読め

 山田氏は、日本社会の少子化が進んだ要因について、『少子社会日本―もうひとつの格差のゆくえ』(岩波新書・2007)の中で、次のように述べています。

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 一つは、経済的要因であり、①結婚や子育てに期待する生活水準が上昇して高止まりしていること、その反面で、②若者が稼ぎ出せると予想する収入水準が低下していることである。
 もう一つは、男女交際に関する社会的要因であり、③結婚しなくても男女交際を深めることが可能になったという意識変化、および、④魅力の格差が拡大していることである。
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 バブル経済がはじけ、平成不況に加えて、経済のグローバル化、IT化が進展し、さらには、雇用の規制緩和も進み、そのさまざまなしわよせが若年層を襲いました。大量のフリーターや派遣社員などの非正規雇用が増え、一方、正社員の収入は上がらず、若年層の経済状況は悪化するばかりです。経済的な理由で、結婚し、子どもを持ちたいと望んでいてもそれがかなわないという事態が続いています。また、結婚できたとしても、「自分の子どもだけは世間並み以上のお金や手間をかけて育てたい」という意識があり、苦しい経済状況の中で、子どもに「世間並み」の生活を保障するには、子どもの数を絞るしかないと考えています。

 さて、山田氏は、少子高齢化がもたらす影響について、次のように述べています。

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 もし、人口構成が変わらずに、総人口が減るのならば、大きな問題はない。しかし、現在進行中の少子化は、子どもの数が少なくなり、高齢者の割合が増えていく少子高齢化である。子どもの数が減り続ければ、それに引き続いて、働く人の割合が低下する。そして、高齢者の人数のみが増加し、高齢者の割合が高まる。寿命の延びを考えなくても、少子化は、高齢化、つまり、人口の中での高齢者割合の増加につながる。(中略)少子化の結果としての 「人口構成の変化」によって、日本社会には、①労働力不足、②年金などの社会保障負担の増大、③経済成長の鈍化などのデメリットが生じることが確実視されている。

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 少子化により、働く世代は減少し、労働力不足が起きることは間違いありません。高齢者を労働力として期待するのも難しい状況です。また、公的年金にしても、医療費にしても実質的には現役世代の掛け金によって支えられています。働く現役世代が減れば、どちらも財政状況が悪化することはまちがいありません。さらには、人口減少によって需要が減り、経済状況に悪影響を及ぼすのです。
 それでは、少子化問題にどのような対策が考えられるでしょうか。山田氏は、「少子化対策という場合、二種類のものがある。一つは、少子化を防ぎ、緩和する対策である。少子化が、社会に対してデメリットを生じさせるのなら、その原因である少子化自体を反転させることが一つの対策となる。もう一つは、少子化によって生じる社会的デメリット自体を緩和する対策である。」としたうえで、少子化を反転させるための施策として、次の4つを挙げています。(『少子社会日本―もうひとつの格差のゆくえ』岩波新書・2007)

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 ①全ての若者に、希望がもてる職につけ、将来にわたって安定した収入が得られる見通しを与えること。
 ②どんな経済状況の親の元に生まれても、子どもが一定水準の教育が受けられ、大人になることを保証すること。
 ③格差社会に対応した男女共同参画を進めること。
 ④若者にコミュニケーション力をつける機会を提供すること。
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 「少子化を防ぎ、緩和する対策」は、合計特殊出生率をどのようにして上げるかということです。合計特殊出生率とは、女性一人あたりが一生涯に産む子どもの数です。一人の女性が2人の子どもを産めば、計算上、日本の人口は長期的に増えも減りもしないのですが、2016年は1.44となったと厚労省が発表しています。最新の将来推計人口でも、出生率が今後も1.42~1.44で推移するという見通しが示されています。しかし、少子化を解決することは、個人の努力だけでは難しい問題です。待機児童の解消、働き方改革等、さまざまな取り組みが見られるようになりましたが、とかく、国や自治体の施策として取り組んでいかなければならない、また社会のシステムを変えていかなくてはいけないという結論になってしまいがちです。しかし、その施策を実現するためには具体的にどうすればよいか、社会システムを変えていくために個人がすべきことは何かを考えていく必要があるのです。
 それでは、高校生はどのように考えていけばいいのでしょうか。まず、しっかりとした職業観を持ったうえで進路選択をし、ミスマッチのない就職をすることだと考えます。せっかく大学に進学しても、学問とのミスマッチ、大学とのミスマッチで1割近くの学生が中途退学しています。また、前述したように、日本型の雇用慣行では、新卒一括採用であり、いったん正社員を外れ、非正規社員となると、挽回が困難になります。近年、景気が少し回復し、就職は売り手市場と言われていますが、やり直しのきかない世の中であるということには変わりありません。正社員と、非正規社員との給与格差は甚だしく、男性は安定した収入が見込めないという理由で、結婚を望んでも、結婚できない状況が生まれてしまうのです。また、女性は高収入のキャリアウーマンも出ていますが、多くは男性に経済的に頼りたいと思っています。しかし、男性の経済力が落ちているために結婚をあきらめているのです。つまり、結婚をし、子どもを育てるには、経済的に安定した生活を送ることが大きな条件となっており、そのことを考慮して、将来設計をする必要があるのです。次に、自分たちが日本の将来を担い、この世の中を支えていくのだという「当事者意識」を持つことです。確かに、さまざまな暗い見通しが発表されていますが、その世の中を変えていくのは若い力です。若者が夢も希望も持てず、社会との関わりも考えられない世の中にしてはいけないのです。少子高齢化の問題のみならず、現在起こっているさまざまな問題について、何が起こっているかだけではなく、どこに問題があるのかという課題意識を持って生きてほしいと思います。何事にも「自分には関係ない」という態度ではなく、少しでも課題解決を考える習慣を身につけてほしいと思います。

 

■入試での出題例

1.恵泉女学園大学・人文学部/人間社会学部(2014年度・AO入試)

【課題文の内容】出典:『パラサイト社会のゆくえ―データで読み解く日本の家族』(2004・ちくま新書)

 50年後の日本の社会は、人口はほぼ1億人まで減少し、3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上となる。1年間で生まれてくる子どもの数は、66万7000人であり、超高齢社会が出現する。少子高齢化によって、人口構成が変化し、働く人の割合が相対的に少なくなり、そのかなりの部分が介護者にまわるというたいへんな事態になる。資源小国日本における少子高齢化とは、経済的な生活レベルが徐々に低くなる状態を意味するのである。これからの50年間は、少子高齢化を前提とするならば、今日より明日が「貧しく」なることを覚悟しながら、楽しく生活する工夫が必要になってくる。
 次に少子化が起こる直接的な原因であるが、1975年ごろから始まる日本の少子化は、未婚化、晩婚化によるものと考えてまちがいはなかった。しかし、今は、子どもを一人しか産み育てない夫婦が増えているのだ。理由は「子どものしあわせ」を願うからである。経済状況が芳しくない状況で、子どもに「世間並み」の生活を保障するには、子どもの数を絞るしかない。世間並みのレベルが高くなり、まわりの親がお金をかけているとき、自分の子どもだけかけないでいられなくなっているのだ。自分の「子どものしあわせ」を願って、子どもの数を少なくするという行動が、結果的に、日本社会全体を「貧しく」して、子どもの将来の生活環境を「貧しい」ものにしてしまう。「自分の子どもだけは世間並み以上のお金や手間をかけて育てたい」という意識の克服ができない限り、少子高齢化は止まりそうもない。となれば、個々人の損得を超えて、社会的に子育てを支援する仕組みを早急につくらねばならない。

【設問】

 課題文を読み、まず要旨を200字程度にまとめたうえで、少子高齢化社会についてのあなたの考えることを述べてください。全体を800字程度とし、解答用紙に書いてください。

〈解説〉

 要旨を200字程度でまとめるということは、部分要約と考えてよい。筆者の一番言いたいことは何かを中心にまとめるようにしよう。筆者の主張の中心は、今の少子高齢化の原因は「自分の子どもだけは世間並み以上のお金や手間をかけて育てたい」という意識があるからだというところにある。しかしながら、その意識はなかなか変えられないものであるので、「個々人の損得を超えて、社会的に子育てを支援する仕組みを早急につくらねばならない」と述べている点を押さえてまとめるようにしよう。
 次に、全体を800字程度とあるので、自分の考えを600字程度でまとめよう。少子高齢化社会について、自分の意見を披瀝(ひれき)するのではなく、要旨でまとめた筆者の主張に対して、どう考えるかを述べる必要がある。特に、社会的な子育てを支援する仕組みにはどのようなことが考えられるかを述べるようにしよう。
 少子高齢化の問題は、小論文入試に頻出している。しかし、経済状況や日本の社会システム等の問題等が複雑に絡み合っており、単純にこれが原因だということは難しい。それ故、その対策として自分のできることを述べるのも簡単ではない。しかし、これからの日本を背負っていく自分たちが、どのような社会を作っていくのか、また作っていきたいのかを考えるときに、人口問題は切り離して考えることはできない。行政がこうすべきだで終わるのではなく、当事者意識を持って、自分たちが何をすればいいのかを、一度きちんとまとめておくようにしよう。
 

 

■読んでおきたい本

『少子化社会日本-もうひとつの格差のゆくえ』 岩波新書 2007

『底辺への競争 格差放置社会ニッポンの末路』 朝日新書 2017

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