山梨県立図書館の副館長として勤務していたとき、館長を務めていらっしゃったのが、作家の阿刀田高氏でした。県立図書館の新館開館にあわせて、その目玉として、阿刀田氏を外部から招聘したのです。
阿刀田氏は非常勤でしたので、月2回程度、図書館に関係するイベントに合わせて、山梨にいらっしゃっていました。わたしは、その間50回近くの講演や講座等のすべてを拝聴するとともに、図書館の運営のこと、読書活動のこと等々、本当にさまざまなことをお話しさせていただきました。
阿刀田氏は、大御所ぶったところが全くなく、私が生意気な意見を述べても大きく受け止め、気さくに、そしていつも紳士に、接してくださいました。
阿刀田氏は、常々「読書は娯楽である」とおっしゃっていました。
小さい頃から、読書環境に恵まれ、さまざまなジャンルの本を読んだそうですが、中でも、「落語全集」を読みあさったとのことです。その後、早稲田大学在学中に、結核のために、16カ月にも及ぶ療養生活を余儀なくされ、その間、外国の短編集をほとんど読み尽くしたそうです。それが、短編小説の第一人者になった礎になったのです。
しかし、最近は自分の楽しみで本を読むということがほとんどないということです。年齢とともに「目力(めぢから)」が衰え、たくさんは読めなくなったうえに、さまざまな文学賞の選考委員を務めている関係で、仕事として本を読まなければならないのです。
候補作品は、5~6冊送られてくるのだそうですが、最初の数頁を読めばその善し悪しはほとんどわかるそうです。しかし、きちんとした評価をするためには、つまらないと思っても最後まで丹念に読まなくてはなりません。まさに、自分の楽しみではなく、仕事のために本を読んでいる状態なのだとおっしゃっていました。
私も、比較的本を読む方であり、「自分の楽しみのために読む」と思っていましたので、阿刀田氏の言葉に、深く納得したものです。
今までは、読むのは自分の好みのジャンルの作品ばかりでしたが、このブログを書く関係で、さまざまなジャンルの評論を読んでいます。場合によっては、著者一人について、5~10冊は読まなければなりません。また、新しい著作にも気を留めるよう努めています。その中には、今まででしたら絶対に読まなかっただろうと思われる本もたくさんあります。
自分の苦手なジャンルの本を読むというのは結構ストレスがあります。また、読み流すことができませんので、線を引いたり、付箋を貼ったり、メモをとったりと時間のかかる読書になっています。仕事だからと自分に言い聞かせ、我慢をしながら読むのですが、嫌いな本はなかなか進みません。
世の中は、いつでも自分の好きなことばかりをやっているわけにはいかないとわかっているつもりですが、読書は楽しいものでありたいのです。改めて、読書は自分の楽しみのためにするものだと感じています。
さて、折角さまざまな本を読んでいますので、私なりの読書案内をしようと思っています。比較的新しい著作の中から、これから小論文入試に取り上げられていくだろうと思われるものや、本編では取り上げられないものを紹介していこうと考えています。
楽しみに、お待ちいただければと思います。
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