第0回~はじめに~

新傾向問題を読み解く

 高大接続改革や高等学校学習指導要領改訂を踏まえ、小論文入試にも新たな傾向の問題が見られるようになっています。そこで、これらの新傾向問題はどのような能力を評価しようとしているのかを、実際の小論文入試問題を使って分析し、それに対処するために必要な考え方、身につけるべきことについて解説していきたいと思います。そのために、まず、今回の教育改革全体について見ていきましょう。

第一学習社 特別顧問 斉藤秀

 

高大接続改革について

 今回の高大接続改革の背景には、グローバル化の進展や技術革新、生産年齢人口の急速な減少等、大きな社会変動の中で、多様な事象が複雑さを増していることが挙げられます。そのため、変化の先行きを見通すことが一層難しくなっています。こうした状況下では、様々な変化に積極的に向き合い、他者と協働して課題を解決し、そのうえで、豊かな人生を切り拓き、持続可能な社会の創り手となることが求められています。そのためには、学力の3要素――①知識・技能、②思考力・判断力・表現力等、③主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度――を確実に育成する必要があり、それを評価するための、高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の「三位一体」改革の取り組みが進められているのです。つまり、大学入学者選抜では、この学力の3要素を多角的・総合的に評価するものへと見直しがされるということです。

文部科学省HP「高大接続改革」による
(出典:文部科学省HP「高大接続改革」による)

 

「書くこと」が一層重視される

 中でも「思考力・判断力・表現力」を一層重視した出題がされていくということであり、「大学入試共通テスト」の国語と数学に記述問題が導入されるとともに、マークシート式問題でも、「思考力・判断力・表現力」を一層重視した見直しが図られます。また、各大学の個別選抜においても、アドミッション・ポリシーに基づいて作問がされ、「思考力・判断力・表現力」を評価する問題(マークシート・記述試験ともに)が課されていきます。一方、個別選抜の入試区分が変更され、総合型選抜(AO入試が区分変更されたもの)では、小論文、プレゼンテーション等の各大学で実施する評価方法、または、大学入試共通テストのうち少なくとも一つの活用が必須化されます。同時に、調査書や活動報告書(志願者自身が記入)の充実も図られ、生徒の資質・能力もバランス良く評価しようとしています。全体的に、表現するための「書くこと」が、一層重要視されていくということが見えてきます。

 

高等学校学習指導要領改訂について

 次に、高等学校学習指導要領ですが、前述した高大接続改革の中で実施される改訂であることを理解しておく必要があります。「学力の3要素」が明確にされ、「何を知っているか、何ができるか」とともに、「知っていること・できることをどう使うか」、そして、「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか」といった資質・能力を育成することが求められています。この資質・能力を育成していくためには、「なぜ学ぶのか」、そして、学んだことを通じて「何ができるようになるか」という学びに対する本質的な意義を考えることが必要になってきます。その中で、高等学校においては、生涯にわたって探求を深める未来の創り手として送り出していくことがこれまで以上に求められるとして、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善が必要だとしています。「主体的・対話的で深い学び」とは、これまで講義中心の授業が多かったことに対して、アクティブ・ラーニングといわれるような生徒が能動的に学ぶことです。つまり、これまで教師主導であった授業を生徒主体の授業へと転換を図ろうというものです。この主体的・対話的で深い学びにとって大切なことは、対話、グループ学習、討論、ディベートといった「学習の型」ではなく、授業において生徒がアクティブ・ラーナーであるかどうかということです。アクティブとは、心や頭が活発に動くことを指しているのであり、主体的に考え、判断したことをどのように表現するかをそのプロセスとともに重要視することが必要です。そのためには、教師自身もアクティブ・ラーナーになること、つまり、教師自身が能動的・主体的に考えることが求められています。

 

未来を担う子どもたちに求められる力

 今回の教育改革全体は、2020年度に小学校に入学する子どもたちが世の中に出ることになる2030年代後半の未来社会の中で、一人ひとりが豊かな人生を送るためには、どのような資質・能力が必要か、またそれらをどのように身につけていけばいいのかという観点で進められていると思われます。特に、学力の3要素を基盤にして、生徒が多様な他者とともにこれからの時代を新たに創造していく力を持つことが必要です。中でも、「主体的に考え、判断し、表現する」ことがキーワードあり、あらゆる場面でそれらの力が試されることになります。大学入試においてもその力を試すような問題が出題されていくという流れなのです。とは言え、「思考力・判断力・表現力」のためには、その土台となる基礎的な「知識・技能」が必要であることは間違いありません。「知識・技能」と「思考力・判断力・表現力」を両輪とし、「主体的に学習に取り組む態度」を推進力とするような学びが必要なのです。

 

 

 このような観点を基盤として、次回から、具体的な小論文入試問題を解説していきたいと思います。

一覧へ戻る ↑