問題の概要
課題文では、原著論文や大学院学生レポートを書く場合と、使用説明書を書く場合のそれぞれに求められていることについて説明されています。今回はそれを読んだうえで、まだナイフを使ってリンゴを剥いたことのない子どもに向けて、「リンゴを剥くためのナイフの使用説明書」を500字以内で書くという問題です。問いには、お皿の上に乗った丸いリンゴと果物ナイフの写真が添えられています。
この問題は、「使用説明書」を書くということなので、「自分の意見を、根拠を示して述べる」という一般的な小論文とは少し違うかもしれません。しかし、相手の必要とする情報を、相手に伝わるように書くというのは、小論文の基本と言える部分です。「意見→根拠」という型を意識せず、相手の必要としている情報を、どのような順序で、どのように書けばわかりやすい文章になるかを、工夫してみましょう。
問題の考え方
医学部医学科でこの問いが出題された意図は、医師になったとき、病気の状況や治療方法について、患者の不安に配慮しながら、患者の求める情報をできるだけわかりやすく、丁寧に説明する必要があるからではないかと推察できます。つまり、相手の求めている情報を取捨選択する力、それを説明するための観察力、さらにはそれをわかりやすく説明する表現力が試されているのではないかと考えられます。今回は、この考えに沿って解説していきます。
この問題で求められているのは、「リンゴの剥き方」ではなく、「リンゴを剥くためのナイフの使用説明書」を書くことです。もちろん、リンゴの皮を剥くにはどうしたらよいか、という手順を書くことも必要になってくるかもしれません。しかし、ナイフをどのように使うかという「ナイフの使用説明書」を書くことが主眼だということを念頭に置いておく必要があります。
課題文には、「この説明書は、誰が、どういう目的で、いつ、どこで読み、どう利用するのかを考え、それに適するように情報を選択・配列することが第一」とあります。また、「何をどの順序に知りたがるかを考えてみる思考実験が必要だ。(中略)書く前にどれだけ行き届いた思考実験をしたかによって、説明書のねうちはおよそきまる」とも述べられています。つまり、この説明書を書くにあたって、ナイフそのものやその使用方法に加え、ナイフを使用するときの注意点など、想定し得るあらゆる場面でどれだけ行き届いた思考をできるかが問われているのです。
さらに、書くべき情報の中から「読者(使用者)にとって必要なものだけを洗いだすことが要件だ」とあります。今回は500字以内という字数制限がありますので、さまざまに思考した中から必要な要件を選択し、適切な順序で簡潔に説明していきましょう。
これらをふまえると、まず、次のような要件について考える必要があります。
・誰が ナイフを使ってリンゴを剥いたことがない子ども
・どういう目的で リンゴの皮を剥くため
・いつ リンゴの皮を剥くとき
・どこで 家庭で
・どう利用するのか ナイフを使ってリンゴの皮を剥く
・ナイフとは ものを切るための道具
・どのようなことに気をつけるか 手を切らないようにすること(安全への配慮)
ナイフを使用する際、最も気をつけなければならないことは、手を切らないようにすること、つまり、安全に留意することです。安全に配慮して、ナイフをどのように使うかは絶対に外してはならない要件です。この要件をふまえたうえで、ナイフを使ってリンゴを剥いた経験のない子どもに向けての説明書ということを意識して、リンゴの皮を剥くには、ナイフをどのように使うか、どのようなことに注意するかについて、考えましょう。なかには、リンゴの皮を剥いたことのない生徒がいるかもしれません。しかし、家庭科の授業など、包丁を使ってものを切ったり、料理をしたりした経験は何かしらあるはずです。その経験から、自分自身がリンゴの皮を剥くときに、ナイフの使い方としてどのような情報が必要なのかを考えてみるとよいでしょう。
・リンゴの場合、丸いままで剥くより、できるだけ分割して剥いた方が安全。
・はじめにリンゴを縦に半分、さらに半分、さらに半分とくし形に切って、
8等分にしてから剥いた方がよい。
・できるだけ薄く剥こうと意識するより、厚くなってもかまわないと安全を最優先する。
・ナイフを持つ手の親指を、皮の上に添えながら切るとよい。
書き上がった答案が、「リンゴを剥くためのナイフの使用説明書」になっているか、見直しましょう。最初に述べたように、ともすると「リンゴの剥き方の説明」になりがちです。リンゴを剥くとき、どのようにナイフを使うか、その際の注意点は何かについて、子どもにわかる説明になっているかを、確認しましょう。
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