担当者のつぶやき 古い本もおもしろい

こんにちは。担当者Uです。

ふと思い立って、昔買った村上春樹さんのエッセイ『村上朝日堂はいかにして鍛えられたか』を読んでいます(そう言えば、以前も村上さんの記事を書いてしまいましたね…最近マイブームです)。
国語の教科書に採択されたことのあるエッセイも載っている、なかなかおもしろい本です。

元ネタは1995年~1996年の『週刊朝日』に掲載されていたコラムだというので、今からもう20年も前の内容の本になるわけです。
じゃあ現代に生きる私たちには役に立たない、古い内容なのかと言うと…


実はそんなことないのです。


例えば。

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都内の某デパートでエレベーターに乗った。そのエレベーターには、車椅子を使う人のために、低い位置に専用のボタンがついていた。(中略)
ところがエレベーターの入り口には、「車椅子ご利用の方は、なるべく付き添いの方と一緒にご利用下さい」と書かれた札がはってあった。僕はこれを読んで本当にびっくりした。
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さて、村上さんは何にびっくりしたのでしょう。続きはこうなっています。



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だってそうでしょう。車椅子のための専用スイッチをわざわざエレベーターにつけておきながら、「なるべくなら誰かについてもらって来いよな。一人で来るなよな」というものの言い方はないだろうよ。だったらはじめからそんな専用スイッチをつけなければいい。付き添いの人がいるのなら、その人が代わりに押してくれるわけだから。もし車椅子専用スイッチをつけるのなら、車椅子利用者が一人で気持ちよく買い物ができる環境を整備するべきだ。(中略)
これを書いた人は、その情けない文章を書くことによって、脚に障害を持った人の心を自分がどれほど傷つけているか、感じなかったのだろうか?
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うーん確かに。
この札を読んだ方の中には、「どこが問題だったのだろう?」と思った人もいるのではないでしょうか。
恥ずかしながら、Uもたぶんこの札を見せられても、すぐに村上さんのような思いに至れなかったのではないかと思います。
でも、確かに車椅子の人がこれを読んだらいい気はしないでしょうね。

それにしても、最近のデパート、エレベーターはどうなっているんでしょう。
さすがに20年も経っているのだから、このような札がないことを祈りたいものですが…。
今度、デパートに行ったら見てみます!


さて、エレベーターの話題は少し時代の流れを感じる内容でしたが、次に紹介するのは、逆に全然時代の流れを感じさせない文章です。


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世の中に「これからの二十一世紀、日本の進むべき道がよくわからない。見えてこない」と発言する人々がいるけれど、そうだろうか? 僕は思うのだけれど、現在我々の抱えている最重要課題のひとつは、エネルギー問題の解決――具体的に言えば、石油発電、ガソリン・エンジン、とくに原子力発電に代わる安全でクリーンな新しいエネルギー源を開発実現化することである。(中略)
でも技術的に原子力を廃絶できるシステムを作りあげることに成功すれば、日本という国家の重みが現実的に、歴史的にがらっと大きく違ってくるはずだ。「いろいろあったけど、日本はその時代やっぱりひとつ地球、人類のために役に立つ大きなことをしたんだな」ということになる。
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東日本大震災の後に書いたかの文章ですが、違います。1995年頃の文章です。
この主張は全く色褪せませんね。
著者に先見の明があるとも言えますし、この日本が20年ぐらい前から何にも進歩していないと言えるかもしれません。




さて、いかがだったでしょうか。
どちらも、20年前も現代も、変わらず社会で問題となっているできごとです。前者はいくぶん改善がみられているかもしれませんが、後者については変わらぬ課題として残っていますよね。
ごくごく当たり前のことですが、その本が書かれた時代も考えつつ、今にどう生かせるか、と思いながら本を読むと、また新たな発見があるものだと思いました。

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